渋谷・鳥重

JR宇都宮線高崎線京浜東北線
湘南新宿ラインが架線切断でストップ。
何人か会社に来られない人がいます。


それにしても、美食の道は奥深い。
おなじみのMさんと、S君と3人で
渋谷の「のんべい横丁」。
なにげなくS君、
「タクシーで行きますか?」
答えてMさん、
「電車で行こうよ。タクシーなんか乗ったら
これから行く店に失礼だよ。」
帰る頃には、このせりふの意味を痛感する・・。



めざすは焼き鳥の「鳥重」。
名物ママがひとりで切り盛りする、知る人ぞ知る名店。
6時、7時半、9時の三回転は予約でいつも満杯。
なにしろカウンターに11人でいっぱいの小さな店だ。



7時半をまわったが、6時の客がまだ帰らない。
店の前で待とうとしたら、MPいわく、
「他の店に迷惑だから、前で待つのはご法度。」とか。
わざわざ、のんべい横丁の入り口まで戻って待つ。
他にも7時半の回を待っている人がチラホラいた。


7時50分頃、ようやく前の客が出るのを見て店の前へ。
すると、片づけを終えたママが予約の名前を呼びはじめる。
呼ばれて初めて、店に入ることができるという寸法だ。


定員11人のところ、今日は10人だとか。
それでも横の人と袖すりあうくらいの密着感。
11人になると、体を少し斜めにして重なるように座る。
「ダークダックス方式」略して「ダークでお願いします。」だと。


カウンターの下に、雑誌にまざって
「秘伝 鳥重のママとの正しい交際方法」
と題された小冊子を発見!
中を見るとお店の概要やメニュー紹介のほかに
鳥重における、「お客の守るべきルール」が書いてある。


たとえば、
○名前を呼ばれるまで外で待つ
○座ったら、ママに声をかけられるまで待つ。
○焼き物と刺身の注文をグループごとにまとめる。
○おろしは最後のスープ用に少し残しておく。
○飲み物の追加は「お手すきで」と控えめに。
などなど・・。


ママが長年にわたって作り上げたお店のペースを優先し
お客はそのペースに合わせて注文したり、飲み食いする。
時には待たされることもあるが、あくまでも我慢する。
それがよりおいしくいただくコツのようである。


レバー


塩とタレ一本ずつ。「塩イチタレイチ」と頼む。
実はもう一本頼もうとしたが、
「そんなに食べられませんよ」とママに却下された。
味もさることながら驚くべきはこのデカさ。
串一本が普通の5倍くらいあるのでは?



実は、「のんべい横丁」は写真撮影禁止という噂があり、
自分では恐くて聞けないのでMさんに聞いていただいた。
「おかあさん、焼き鳥だけ写真撮ってもいいですか?」
「何撮ってもいいですよ。私以外ならね。
ほら、ギャラが発生しちゃうから。事務所通してもらわないと。」


ママはどこまでも饒舌で、しかも言葉遣いに品がある。
その上ギャグも怠らない。
もっと愛想のない強面を想像していたが全く違った。
この人柄も人気の秘密。


最初におろしが出る。次にレバーが焼けてきた。
一口いただく。もう8時を過ぎている。
7時半から待っていたせいもあり、嗚咽するほどうまい。
他の客もみんな同じせりふをはく。
「うううまい。」


その後ようやくビールが出てくる。
レバーの前にビールが出てこないのも、
自分で焼いているママのペースである。
あおるように飲む。8時15分。また嗚咽する。


ハツ


柚子胡椒をつけていただく。
外側がコリコリする。予想外の食感。



刺身


レバーとササミ。
「まぜて」と頼むとこうして出てくる。
「まぜないで」と頼むとレバーだけ出てくる。
「ナナサンで」と頼むとレバー7、ササミ3で出てくる。


実はわれわれ「まぜないで」と頼んだつもりだが、
ママが勘違いして「まぜて」出してきた。
普通なら違うと言うところだが、なぜか言えない。
でも食べたらうまかったので、結局許してしまう。



上に乗っているのはしょうがとニンニク、
横の小皿は胡麻だれ。お好みで使い分ける。
「一回食べたら、三ヶ月に一度くらい食べたくなる。」
前田Pのそんな表現も決してオーバーではないのだ。


ワイン


高いグラスと低いグラスを二つ重ねて。
日本酒で言う「もっきり」スタイル。
これ一杯でハーフボトルくらいある。
この際「銘柄は?」などと陳腐なことは言うまい。



トリ


いわゆる鳥の正肉。まっとうなうまさにしびれる。



合鴨


あぶらのりまくり。これはうまい。



隣の客はかなりの常連と見えて
帰りにこの合鴨をオミヤにしていた。
オミヤにできることも驚きだが、
家で、ゴボウとシイタケとシメジと一緒に
ご飯にまぜて、炊き込みご飯を作るのだという。
「う、うまそう・・。」


横からママが
「もち米をちょっとまぜると、
おこわみたいになっておいしいですよ。」と。
炊き込みご飯もママのアイデアに違いない。


団子


これも塩かタレの選択。
「ニイイチで」と頼むとタレ2、塩1で出てくる。
いわゆる「つくね」だが「団子」のほうが似合う。



お新香とスープ


しめの二品。最後に必ず出てくる。
このスープを、おろしの残った器に入れてもらう。
だから全部食べてはいけないのだ。




おろしの中にすでに、ここまで食べたタレやら塩やら
柚子胡椒やらいろんなものがまざっている。


白濁したスープはずっと、大きなやかんで火にかけられていた。
そこにさらに塩こしょう、ネギ、しょうが、にんにくなど
ありとあらゆる調味料を手際よく振りかけてゆく。
言葉にできない複雑な味わいのスープが出来上がる。


ちなみに隣の常連はこのスープもビンに入れて持ち帰った。
しかも、帰りがけに来週木曜日の予約を入れていた。
恐るべし。


明るく高い声で終始話し続けるママは
本当にサービス精神旺盛で頭が下がる。
時々恐いこともあるが、実に愛すべきキャラクターだ。


スープの中からやおら大根を取り出し、ママが相好を崩す。
中でずっと煮込んでいたらしい。
「店が終わったらおとうちゃんが片付けに来てくれるから。
毎晩この大根を食べさせてあげるんです。
柚子胡椒とお塩をちょっとで本当においしいの。
大根食べるとがんにならないって言うでしょ。」
最後にすっかりのろけられた。ごちそうさま。


9時の客のおろしを作りながら、お会計が発表される。
信じられないかもしれないが、3人で6,100円。
しかも「100円まけてあげましょう。」だと。
やられた。
赤坂からタクシーなんか乗ったら失礼だ。


鳥重
電話・非公開