森下・みの家

青森県田舎館村の「田んぼアート」。
今年から日本航空がスポンサーになり
勢い込んで田んぼに社名を描いたら
「広告の話など聞いていない。」と
地権者の反発を買い稲を抜いたとか。


さて、深川の桜鍋の老舗、みの家である。
創業1897年、110年を超える歴史。
かつて深川は隅田川の海運業で賑わった。
そこで職人に馬肉を振舞ったのが始まり。


現在の店舗は昭和29年に建てられたもの。
半世紀以上、森下の町に威容を誇っている。



当初炭を使ったため天井が高く風通しが良い。
木場の職人に値踏みされぬよう見栄を張って
全国から銘木を集めて贅沢に作られたという。
歴史的な建築物として鑑賞に堪えるレベルだ。



1階も2階も、ステンレスの長机が2列ある。
ガスコンロが仕込まれた実に合理的な作り。
連れは向かい合って、隣には別の客が座る。
「入れ込み式」と呼ばれる席の配置である。


肉さし
いわゆる馬刺し。
アッサリと食べやすい。



あぶらさし
俗に言うタテガミ。
首の後ろにこんなにも脂身が。
肉さしとあぶらさしを1枚ずつ、
重ねて一緒に食べるとなおうまい。



馬肉たたき
ドレッシングをかけて
レタスと一緒にサラダ仕立て。
鍋の前にちょうどいい前菜だ。



玉子焼き
大ぶりの玉子焼き。
蕎麦屋で出てくる。
甘くて実にうまい。



板わさや冷やっこ、
べったら漬けなど
おつまみも真っ当。


暖簾や風呂敷、手ぬぐいなど
有名な噺家さんからの贈呈品。
店内に自慢気に飾られている。
職人から文化人まで支持者の幅は広い。



ざく
鍋用の野菜類。
ねぎはいわゆる千住ねぎ。
専門の卸市場で仕入れる。


白滝とお麩も、みの家オリジナルを
特別に作製してもらっているらしい。
桜なべだけしか出していない分
細かいところにこだわっている。



桜なべ
八丁味噌風の濃厚な赤い味噌。
みの家の桜なべの特徴である。
これを溶きながら桜肉を煮る。



米久の牛鍋と同じような
底の浅い小ぶりのなべ。
肉は色が変わったら食べごろ。
少しでもタイミングを逃すと
硬くなってしまうので要注意。



馬肉は高たんぱくで低脂肪。
カロリーも低いので体に良い。
品質にこだわって肉を選べば、
牛肉よりうまくてしかも安い。
良いことづくめなのである。


肉、肉、野菜、肉、野菜。
濃厚な味噌と中和する生卵。
110年かけて研究しつくした
絶対的なバランスは揺るがない。


安いと思うとなお食べやすく
つい気軽にお替りしてしまう。


最後に生卵を鍋の中に落とし
半熟にして白飯にぶっかける。
店ではそれを推奨しているが
お腹一杯で白飯に行き着かず。


気がつけば2階席で最後の客。
早々に勘定を済ませ外に出る。
ここからが江戸文化研究会の醍醐味。
帰る道すがら情緒ある界隈の散策へ。


清澄白河の駅を目指して清澄通りを南下。
小名木川手前でどぜう「伊勢喜」を確認。
こちらも老舗らしいいかにものたたずまい。



深川不動門前仲町までは距離がある。
そこで西向きに折れて隅田川を目指す。
夜でも少し歩くと汗ばむ陽気だが
川のそばだけは風が渡り心地よい。


桜なべの帰りに川沿いをそぞろ歩く。
池波正太郎にでもなった気分である。



ライトアップされた清洲橋
右の方には新大橋も見える。



深川の下町から日本橋のビル街へ。
川の向こうとこちら側では
時代が30年程違うようだ。
ひとつ橋を渡る間に
昭和の粋人も平成のビジネスマンに変わる。


冷酒1本ずつ、桜なべをおかわり。
ひととおりで一人5、6000円。
「深川で桜なべ」という体験を買う。
そう考えれば満足度は非常に高い。
みの家
03−3631−8298