江古田・やっちゃん

ワシントン条約会議がドーハで開幕した。
地中海・北大西洋クロマグロの扱いは。
国際取引禁止の姿勢鮮明な米国とEUに
日本や豪州の反対表明は説得力を持てるか。


さて、江古田の肉居酒屋「やっちゃん」である。
居酒屋なのに牛・豚・鳥など肉ばかり出てくる。
すべて厨房で調理されるので焼肉屋ではない。
カテゴリーに分けるのが難しい極めて珍しい店。


六本木から都営大江戸線ではるばる11駅。
新江古田」という駅に初めて降り立った。
そこからバス通りを早足で歩くこと20分。
閑静な住宅街の中に唐突にその店はあった。



中はもうカウンターもテーブルも大にぎわい。
実は3週間くらい前に電話して3席確保した。
「肉の神が宿る」とまで言われる隠れた名店。
この立地で予約の取れない「やっちゃん」の実力。


ところで「えこだ」とばかり思っていたら
大江戸線の駅名は「しん・えごた」だった。
この辺り中野区江古田では「えごた」だと。
練馬区では西武線の駅名も「えこだ」になる。


キャベツ
豪快なまるごとキャベツ。
こちらはおかわりも自由。
肉に合わせるお通しである。



刺身盛り合わせ
手前は2種類の外もも。左はハラミ。
奥へ行ってレバ、ロースの生ハム、
豚のガツ刺し、牛のセンマイ刺し。



見事なサシとあざやかな光沢。
綺麗な生肉の容姿にうっとり。
食べて味わいにまたうっとり。
とりわけロースの生ハムは絶品。


煮込み
ネギと豆腐に隠れているが
ミノやハチノスがこってり。
常連も必ず注文する名物だ。



牛舌焼き
塩コショウでサッと焼くか
素焼きにしてワサビで食うか。
聞かれてウ〜ンと悩んでいたら
オヤジが勝手に素焼きに決めた。



歯ごたえと肉の味を感じる。
噛めばうまみがにじみ出る。
さすが素焼きにして大正解。
その日の肉の具合で考える。


一品ごとに簡単に説明がある。
今日の肉は良いとかなんとか。
だからよく焼くとか焼かないとか。
いちいち理屈が通っていて面白い。


牛肉は近江と但馬にとどめを刺す。
松阪牛は松阪で生まれたのでなく
近江や但馬の牛を松阪に運んだと。
つまり松阪育ちという意味だそう。


三島牛は別格の天然記念物クラス。
大田原牛貴腐ワインのようなもの。
狂牛病の時の全頭検査も怪しいもの。
調理の手を休めずしゃべりも休まない。
とにかくずっと肉の話ばかりしている。


豚コメカミ
うまい。
これほどの噛み応え。
これほどの肉の旨味。
焼きとん屋のカシラと
何がそんなに違うのか。



つくね
牛と豚の合挽き。
もはやこれはハンバーグ。
焦げ目の香ばしさがいい。
甘めの濃いタレが良く合う。



牛ロース焼き
今日は特別いい肉があると言う。
ロースと言ってもシンシンの下。
シンシンは内ももの下の球状の塊。
きめ細かく味が濃く幅広く使える。



ロースと言うよりカルビに近い。
柔らかく舌の上で溶けるようだ。
しかもしつこくも脂っこくもない。
特別な肉と言うだけのことはある。


ベーコン
こんな厚いベーコン。
しかも贅沢な枚数。
でも量ではなく質。
そこらのベーコン食えなくなるよ。
オヤジがまた本気であおる。



口の中一杯に肉汁が広がる。
大急ぎでワインを流し込む。
そしてまたベーコンを食う。
永遠に終わらないで欲しい循環。


煮込みハンバーグ
こっちが本当のハンバーグ。
でもやっぱり牛豚の合挽き。
スープは意外にアッサリと。
おそらくテールスープかと。
あくまで肉を引き立たせる。



カウンターの上に大きな器が並ぶ。
中味を聞いたら蓋を取ってくれた。
テールやハチノスなど内臓の煮物。
肉の神がサッと隠れるのが見えた。



どの客もシメに煮物を注文する。
器から無造作に鷲づかみにする。
ジッと物欲しそうに見ていたら
オヤジが一切れちぎってくれた。


バケットを持ち込む常連も多い。
ガーリックトーストにしてくれる。
煮物の汁につけてバクバクと食う。
次回は絶対にまねしてやろうと思う。


煮物盛り合わせ
腹ははちきれそうだったが
「ほんの少しだけ」とたのむ。
テールとハチノス、三浦大根。
一人前はこの3倍から4倍だ。



一見頑固オヤジだが人懐っこい。
おしゃべりでサービス精神旺盛。
良い肉をより美味しく供すること。
それだけを考え今日も厨房に立つ。


大人数の客が帰り店が静かになった。
カウンターで女将さんがしみじみ言う。
この不便な場所で31年目になると。
おかげ様でお客さんは途切れないと。


ワイン1本半飲んでひとり6,000円。
客は今日も「肉の神」を見たくて来る。
ロースに宿るのかテールに宿るのか。
それともオヤジさん自身に宿るのか。
やっちゃん
03−3954−4997