東日本橋・鳥安

東電に対し官民で総額2兆円の支援。
原子力損害賠償支援機構と取引銀行。
年明けから3月までの取りまとめを目指し
東電の実質的な国有化へ向けて調整。


さて、東日本橋の割烹「鳥安」である。
「あひ鴨一品」と店名に肩書きがつく。
メニューはあひ鴨のすき焼きコースのみ。
創業明治5年から140年間守られた味。


江戸文化研究会久しぶりの例会は時節柄
両国まで足をのばし吉良上野介邸跡地へ。
広大な屋敷を後に地元の有志が購入して
80分の1の小ぢんまりとした公園にした。



江戸中の注目を集めたという世紀の仇討ち。
赤穂浪士の気分を味わおうと大川端を歩く。
川を渡る風が体に沁みる頃ちょうど目的地に。
屋形舟からも見える堂々たる3階建ての店。



座敷や洋室などすべて個室で100席を有す。
年末の繁忙期で部屋のタイプは選べないが
普段から古居酒屋が多い当研究会にしては
めずらしく贅沢な空間で会員の意気もあがる。


お通し
合鴨胸肉の燻製を中心に
季節の味わいが添えられる。
炭火が運ばれるまでの間
はやる気持ちを抑えて待つ。



お吸い物
さっぱりとしたカツオだし。
鴨のミンチ肉が入っている。



やがて備長炭の入った大きな鉢と
独特の形状の使いこまれた鉄鍋が。
底面が斜めで片側にくぼみがあり
鴨の脂がそこに集まるという工夫。



創業時から使われていたこの鉄鍋も
戦時中は物資として拠出させられた。
だがひとつだけ極秘に隠し持っていて
戦後南部鉄器に作らせたものだという。


ささみのサラダ
仲居さんがすき焼きの準備に入る。
鍋がジィジィと温まるのを見ながら
ささみのサラダをいただいてなお待つ。



「あひ鴨」は「あひる」と「鴨」の交配種。
狩猟用の囮や愛玩鳥としても飼育される。
鴨肉に比べ脂身が多く柔らかく味は薄い。
その脂身が役に立つことはやがてわかる。


すき焼き
見た目も鮮やかなあひ鴨が運びまれる。
胸肉のほかにレバに砂肝にミンチ肉も。
仕入れ先は女将だけが知っているとか。
ここからは仲居さんにおまかせである。



初めに白い脂身を乗せて鍋を脂で浸す。
その上に丁寧に肉と野菜が並べられる。
すき焼きというより素揚げかコンフィか。
絶妙のタイミングで皿に取り分けられる。



まずは大根おろしと生醤油でいただく。
シャーベットのようにきめ細かい大根。
薄味でほのかに甘いヤマサの生醤油。
鴨肉の味を引き立たせる抜群の相性。



五代目尾上菊五郎の勧めで店を始めた。
以来多くの文人墨客が贔屓にしたとか。
横光利一小津安二郎、六世尾上梅幸
本棚はちょっとした鳥安ライブラリーである。



二杯目からは山椒と七味をお好みで。
ネギもしいたけも鴨の脂にくるまれて。



シメは白飯かそぼろ丼かはたまた炒飯か。
炒飯を選んで鴨の脂を最後まで堪能する。



帰りがけ廊下の額に興味深いものを発見。
明治25年の千穐庵選「當世雷名八称人」。
各種有名八傑の番付は明治のミシュランか。
「鳥肉八鮮」の欄には確かに「鳥安」とある。



八傑を数える単位が気が利いておもしろい。
著作八筆、娼家八楼、蒲焼八串、汁粉八甘、
天麩羅八油、長唄八曲、幇間はなんと八媚。
幇間の八傑を称賛していること自体楽しい。


デザート
黒豆のプリンは実にクリーミー
あひ鴨の食後感を調えてくれる。



あひ鴨のコースは一人前一万円。
お土産に江戸古地図カレンダー。
ほろ酔いで店をあとにするお客を
数える単位は一脂、二脂だとか。


あひ鴨一品鳥安
03−3862−4008