新宿・三浦屋

それにしても毎日寒い日が続きますね。
寒い日が続くと年寄りが死にますね。
市川昆が昨日92歳で亡くなりました。


大昔に見た「東京オリンピック」の記録映画。
淡々とした語りと、スタイリッシュな映像美。
北京オリンピック」の前にもう一度見たい。
合掌。


さて、新宿のふぐの「三浦屋」である。
有名な浅草三浦屋とは、ご兄弟だとか。
新宿の「抜弁天」近くの商店街の一角。
ひとりでは絶対に行き着けない場所だ。



創業38年の老舗らしく飾らないたたずまい。
奥行きがあり、広間や個室などかなりの席数。
部屋には「フェザー級」とか「ミドル級」とか
なぜかボクシングの階級の名前がつけられている。
その理由は後で述べることにしよう。


ふぐ刺し


毎日下関から空輸される天然とらふぐ。
主人いわく「薄いばかりがふぐじゃない」。
贅沢に肉厚な刺身をほおばると甘い味わい。



煮こごり


これぞ尿酸値アップの決定版。
こういう時だけは数値のことは考えない。



から揚げ


身がしっかりで食べごたえがある。
ふぐちりのために余力を残さねば。



ひれ酒


ふぐの醍醐味はなんと言ってもこれだ。
誰が考えたのか知らないが、えらい!
差し替え、差し替え、そろそろご新規。
口当たり良く飲みやすく、きりがない。



さてお部屋の名前から察せられるとおり
ご主人はかつてプロボクサーだったとか。
しかも、日本人初の東洋チャンピオンで、
世界ランク3位まで登りつめたつわものだ。


引退後も後進の指導にあたっていたが、
一念発起して30歳の時に厨房に入った。
華麗なる転身を絵に描いたような人だ。
店には、当時の写真が誇らしげに飾られる。



こちらはモハメド・アリとのツーショット。
「写真が古いから、もともと色が黒い上に、
さらに黒ずんでちょっとわかりにくいんです。」
そう言って目を細める姿が実にかわいらしい。



白子焼き


皮の中はユルユルホワホワ。
何ものにも替えがたい食感。



ふぐちり


この物量感を見よ!
「加瀬政」のたらも見事だったが、
天然とらふぐとなると意味が違う。


「大阪だと白菜なんかが入るでしょう。
あれでガサを増やしているんですよ。
うちはふぐの量だけで勝負しますから。」
自信にあふれた、チャンピオンのお言葉。



昭和33年、ご主人が18歳の頃
TBSにはボクシング中継の番組があったそうだ。
「チャンピオンズ・スカウト」というタイトルで
マツダオートバイ」(!)の一社提供だったとか。


「しょっちゅう出してもらっていましたよ。
俺が初代チャンピオンになったもんですから。
プロデューサーは森忠大さんって言ったな。
忠は忠義の忠。知っていますか?」とご主人。


あのぉ、まだ生まれてないんですけど・・。


もち


ポン酢につけて。
歯ごたえがあってうまい。



雑炊


ご主人自ら作ってくれた。
卵とポン酢の絶妙のバランス。
至福のひとときである。



店内には、静かに浪曲が流れている。
ご主人のよそってくれた雑炊をかきこんで
TBSの創世期のボクシング番組のことや
大先輩の森プロデューサーに思いを馳せる。


その時代、ボクシングの番組を仕切るなんて
いったいどんなに恐ろしい思いをしただろう。
ひれ酒は進み、もう何杯飲んだかわからない。
居ながらにして、時間は「昭和」に迷い込む。


コストパフォーマンス最高。
もちろん安いわけではないが、
この内容ならじゅうぶん納得。


新宿三浦屋
03−3203−9191