浅草・辻むら

サッカーの東アジア選手権決勝大会。
日本は香港に対して3−0で快勝した。
絶望的な決定力不足と動員力不足の中
ワールドカップに向けて再スタートする。


さて、浅草の和食「辻むら」である。
ふぐとすっぽんを出す下町の懐石。
地元では知らない人はいないとか。
浅草の古い住人に是非にと誘われた。


仲見世浅草寺の賑わいを横目に見て
言問い通りも越えていわゆる観音裏に。
雷5656会館の角から柳通りへと入る。
程なくして左側に目指す「辻むら」はある。


意外に小ぢんまりとした2階建ての一軒家。
1階に調理場と6人と8人の個室が2部屋。
2階にも大きめの個室と20人はいる大広間。
休日には地元の客を中心に満員になるという。


もともと浅草には「三浦屋」や「三角」など
天然のふぐを安く出す老舗が多く集まる。
「辻むら」もそんな評判の店の中の一軒だ。
今日は他の店にないすっぽんにチャレンジ。


お通し
まずはサッパリと。
白子をポン酢で。



お刺身
いきなりクライマックス。
見たこともない内臓部位。
それぞれに切り分けられ
整然と並べられたお刺身。



真ん中の赤く小さな塊が心臓。
この時点ではまだ動いていた。
写真ではわからないのが残念。
そっと口にふくむが味はない。


その手前は胆嚢。
しぼり汁でなく丸のままである。
すっぽんは全身食べられるけど
甲羅と爪と胆嚢だけは無理だと
確かものの本に書いてあったが。


「相当苦いので絶対噛まないで。」
脅されて恐る恐る飲みこんでみた。
これでは味も食感もわからない。
精力をつけるためだけに供される。


その隣は脾臓。それこそ苦かった。
奥で血管の浮き出ているのが精巣。
「エイヤッ!」と口の中に放り込むと
ホワホワと確かに白子の感触がある。


一番奥が肝臓の見慣れたたたずまい。
ニンニクとゴマだれで普通に食べる。
牛や豚のそれとあまり変わらないか。
ようやく日常的な世界に戻ってきた。


生き血
ジュースで割っているのか。
サラッとして飲みやすい。



「今晩眠れなくなるかもしれません。
とにかく効くから覚悟してください。」
さんざん脅かされたがその夜は爆睡。
年のせいかすっかり鈍くなっている(汗)。


言問い通りを境に浅草は町の気配が一変する。
雷門から浅草寺までは観光気分のハレの世界。
観音裏は人々の生活感あふれる下町の商店街。
昔からの本当の浅草はこっちなのかもしれない。


猿之助横丁や象潟通りなど由緒ある路地。
粋な小料理屋や地元密着型の定食屋など
決して多くはないが魅力的な店が点々と。
あたたかい店の灯りが遅くまで人を誘う。


から揚げ
淡い味の白身をあえてから揚げに。
ふぐもすっぽんもから揚げが合う。
衣の脂身と白身の程よい緊張関係。



すっぽん鍋
お造りともう一品おつまみが出て
いよいよ本日のメインイベントだ。
すっぽんは浜名湖産の天然もの。
白濁した汁はコラーゲンたっぷり。



すっぽんのエキスが汁に混じりだす。
煮るほどにだしが出て濃厚さを増す。
やがて身や皮もほぐれてとけ始める。
一口食べるとくちびるがパリパリに。



しめはやはり雑炊で。
思わずおかわりした。
食べ終えてふぅっと
大きくため息をつく。



観音裏の奥は千束から吉原へと続く。
吉原の向こうは日本堤や竜泉あたり。
樋口一葉の「たけくらべ」の舞台である。
一葉はここで荒物駄菓子の店を営んだ。


さらに北上すると三ノ輪から南千住へ。
やがて隅田川に出て家並みが途切れる。
東京の「基本」がたくさんつまった街。
どこか懐かしく思えるのはそのせいか。


「一年は三社祭を中心にまわる。」と主人。
浜名湖産のすっぽんはフンパツだが
ふぐなら5000円からでも食べられる。
気風の良さと下町人情があふれる店。
辻むら
03−3872−4640