虎ノ門・鈴傳

スイス・チューリヒのビューレル美術館から
今月10日に強奪された4点の絵画のうち、
ゴッホとモネの絵が無事回収されたという。
残るセザンヌドガの2点は、依然行方不明。


強奪からわずか1週間での意外な新展開。
盗んでみたら気に入らなかったのかしら?


さて、虎ノ門の超有名居酒屋「鈴傳」である。
地下鉄を、虎ノ門もしくは霞ヶ関駅でおりて
官庁街を抜ける。およそ居酒屋と無縁の街並み。



霞ヶ関ビルにも見下ろされるオフィス街に
当たり前のような顔をしてその店はあった。



江戸時代から続く四谷の酒屋「鈴傳」が発祥。
当時大蔵省が近くにあり、常連客が多かった。
その後、大蔵省が四谷から虎ノ門に移転するときに
四谷の店はそのままに、虎ノ門に支店を出したとか。
それが1956年、もう50年を過ぎているのだ。


毎度おなじみ、居酒屋の権威Tさん。
彼にとってこの店は、いわばベース。
何年もここに通いつめ、それが基準になる。
味、値段、雰囲気・・。
他店でも、「鈴傳と比べてどうか。」と考える。


おぼろ豆腐
たっぷりのネギ、生姜、鰹節と。



しめ鯖
居酒屋の定番。
脂がのってうまい。



酒は地方の地酒。
十四代をたのんだら早くも売り切れ。
とりあえず青森の「田酒」から始める。
あれこれと飲んでると確実に酔っ払う。


そんなTさんも、今回3年ぶりの鈴傳だとか。
そうなるとお店のスタッフもお客の顔ぶれも
肴のラインナップもだいぶ変わった気がすると。


「なんだか落ち着かないし、肩身が狭い。」
居酒屋の権威がしばしば不安を口にする。
あれだけなじんだ店でも、3年で変わる。
老舗と常連の関係なんてそんなものかも。


にぎわう店内を描いた油絵がかかっていた。
飲みすぎか、客の顔色が悪いのが気になる。



まぐろ納豆
かきまぜるのが楽しい。



クジラベーコン
合成着色料のような不自然な赤。



「おお虎に ならぬ手前の 虎ノ門
「苛立ちを 酒に溶かして ぐっと干す」
酒にまつわる標語が何枚か壁に張られる。


店内のお客はみな大声を張り上げて話す。
不思議に、それがうるさいとは思わない。
全体がわんわんと。個別の話は聞き取れない。
老舗独特の「秩序ある喧騒」がここにあった。


お客も顔見知りで、間合いがわかっている。
その秩序を乱すような者はひとりもいない。
50年かけて作り上げた、お客との共同作業。


身欠きニシン
味付けしっかり。



くさや
Tさんがどうしてもと。
確かに日本酒には合う。



ある日の店内の写真が飾られていた。
お客と肩を組み、笑っているご主人。
貸切でもないのに、全員が友達みたい。



予想通り3人で9870円。
代替わりして味が落ちたと
批判する人もいるらしいが、
50年の伝統にふれられるだけで
私は満足。
鈴傳
03−3580−1944